日本の学校教育

第4回 ギフテッド教育 オレゴン州ビーバートン学校区(アメリカ公立)

日本でも最近になって、ギフテッドという言葉を耳にするようになってきた。しかし、そもそもギフテッドの子供とはどういう子たちなのだろう? アメリカの教育省は、1993年にギフテッドの生徒を、「同じ年齢や経験、環境における他の生徒と比較して、非常に高いレベルの成果を達成、または実行する可能性を示す、突出した才能を持つ子供と若者」と定義している。ギフテッドは贈り物を意味するギフトを語源とし、天から与えられた資質、天賦の才という意味をもつが、ギフテッド・チャイルドという場合、知能が並外れて高い子供を指す場合が多い。

 

しかし、そういうギフテッドの子供たちの未来は前途洋々かといえば、必ずしもそうではない。学校に通っていても普通の授業ではもの足りず、優秀すぎるために周囲から浮いてしまったり、ペースを乱すとして先生から疎まれてしまったりすることもある。また、子供によっては、興味のある分野には並外れた集中力を見せるものの、興味のない分野ではまったくやる気が出なかったり、考えかたがユニークすぎて変わり者と思われたり、一般的な子供たちと興味の対象が違うので、まわりとうまく合わせていけなかったり・・・。高い知能を持っているにも関わらず、大人になったときにギフテッドが皆成功しているかというと、実はそうでもないという現状がある。

 

アメリカではギフテッドの子供たちを対象にしたギフテッド教育が、私立・公立共に行われているが、公立校の場合は州や学校区によって内容が大きく異なり、まったく行われていないところもある。私の息子はオレゴン州のビーバートン学校区でキンダーガーテンから高校まで通い、娘は現在も高校に在籍している。ここでは、ビーバートン学校区のギフテッド教育をご紹介したい。ポートランドの隣にあるビーバートンは公立校の教育が良いことで知られており、教育熱心なアジア人の占める割合も高い。ギフテッド教育や、その教育を受ける子供たちは、Tarented and giftedの頭文字をとってTAG(タグ)と呼ばれている。TAGは各小・中学校で一年に一度、知能テストと数学、英語のテストを行って選別される。テストを受けるのは先生に推薦された子や、本人または親が望む子供。このテストで同年齢の子供の97パーセント以上、つまり上位3パーセントに位置する成績をとるとTAGと認められる。

 

私の子供たちは小学2年生の時にこのテストを受け、TAGと認定された。小学生の間は、TAGの子も普通のクラスにとどまり、他の子たちよりも高いレベルの勉強をすることが多い。私の子供たちもクラスに何人かTAGの子がいたので、数学やリーディングはそういう子たちとグループになって勉強をしていた(こちらでは、同じクラス内で習熟度別にグループを分けて勉強を進めることが多い)。そして、TAGの子たちは成績表をもらうときに、数学とリーディング、ライティングに関する評価の紙を別にもらってきていた。

 

しかし、中学ではこれが大きく変わる。ビーバートン学校区では2004年にSumma(スマ)というギフテッドプログラムが作られた。これは現在、学校区内の三つの中学校で行われており、この授業を受ける能力があると認められた子供たちがまとまって、人文科学、数学、科学のコアクラスを受けるというもの。体育や音楽などの他の授業は普通の生徒たちと一緒に受ける。このプログラムに入ることを希望する子供は、中学に入る前に、小学生の時に受けたような選別のためのテストを受ける。当初は、知能テストで99パーセント以上、または数学と英語の両方で99パーセント以上の点をとった場合のみ、Summaへの入学が認められていた。しかし、1パーセントか2パーセントの差で入れなかった子供の親たちからの要請で、その後見直しが行われ、知能テストで99パーセント以上、または、数学か英語のテストで99パーセント以上の点をとって、もう一つの教科と知能テストが97パーセント以上であれば、このプログラムに入ることが認められるように緩和された。私の子供たちも小学校高学年の時にこのテストを受けてSummaに入った。Summaの授業は、例えば、数学では高校で習う代数や幾何学をすでに勉強し、人文科学でも高校・大学並みのクリティカルシンキングが求められるなど非常に高度。完璧主義かつ時間を気にしない私の息子はいつも夜遅くまで宿題をやっていたが、同レベルの生徒たちと少人数で3年間密に過ごし、高校に進んでからも仲良くつきあえる友だちができた中学生活は、何ものにも代えがたいものだと思う。ところで、高校に入ると、ビーバートンではギフテッド教育は行われなくなる。高校にはAPという大学のクラスを履修できるプログラムがあるためだと思われる。

 

さて、一言でギフテッドといっても、さまざまな子供がいる。しかし、一般的な子供との違いに苦悩する子が多いのは事実。ビーバートンではTAGと認定された子の親向けに、ギフテッドの子供を理解する講習なども行われている。私の息子も他の男の子たちとは興味の対象が違い、幼い頃はかなり心配もした。しかし、普通の子と違うということをコンプレックスとして感じさせず、その違いを認め、さらに彼らが求める知的な刺激を満たす受け皿としてのプログラムがあるビーバートンで子供を育てることができて、本当に感謝している。

 

また、混同されやすいが、ギフテッドというのは、努力家の成績優秀な子どもとは根本的に違う。日本でギフテッド教育が広まらない理由として、日本の能力平等主義があげられる。ギフテッドはその言葉が表すように、天から与えられた才能をもつということだが、能力において人は皆平等で努力すれば同じように伸びるという考え方があると、ギフテッド教育は浸透しづらいだろう。個人の違いを前提にしたプログラムが作られ、日本のギフテッドの子どもたちが萎縮することなく、その素晴らしい能力を伸ばせるようになることを願ってやまない。

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